「傷は治ったのに、なんだか皮膚が引っ張られる…」その原因、瘢痕組織かもしれません
手術が無事に終わり、傷口もきれいに閉じた。
それなのに、
- 傷あと周辺の皮膚がつっぱる
- 皮膚を動かすと引っ張られる感じがする
- 傷あとが硬く感じる
- 関節を動かすと傷あとまで引っ張られる
- 傷あと周辺に違和感や痛みが残っている
このような症状で悩んでいませんか?
その原因の一つとして考えられるのが、**瘢痕組織(はんこんそしき)**です。
瘢痕組織って何?
皮膚や組織が手術などによって傷つくと、身体は傷を修復するためにコラーゲンなどを作ります。
その結果として形成されるのが「瘢痕」です。
瘢痕は正常な皮膚とまったく同じ組織ではなく、治癒の過程で組織の構造やコラーゲンの配列が変化しています。
時間の経過とともに瘢痕はリモデリングされ、徐々に柔らかくなっていくことがあります。
しかし、瘢痕が硬くなったり、周囲の組織との滑走性が低下したりすると、
「皮膚が引っ張られる」
「動かしにくい」
「つっぱる」
といった感覚につながることがあります。
「傷が治った=完全に元通り」ではありません
ここが意外と重要です。
皮膚表面の傷が閉じていても、皮膚の下では組織の修復とリモデリングが続いています。
そのため、
見た目は治っているのに、動かすとつっぱる
ということは珍しくありません。
特に、関節の近くや大きな手術痕では、瘢痕による組織の硬さや滑走性の低下が動作時の違和感につながることがあります。
鍼で瘢痕にアプローチできる?
近年、瘢痕に対する鍼治療やドライニードリングについても研究が行われています。
2024年に発表されたシステマティックレビューでは、瘢痕に対する鍼・ドライニードリングに関する研究をまとめたところ、
- 瘢痕に伴う痛み
- かゆみなどの症状
- 瘢痕の柔軟性
- 組織の可動性
- 関節の動かしにくさ
などの改善が報告された研究がありました。(PubMed Central (PMC))
一方で、現在の研究数はまだ少なく、治療方法や評価方法にも大きな違いがあります。
そのため、
「鍼をすれば瘢痕が確実に消える」
とまでは医学的に証明されていません。
ここは非常に大切なポイントです。
鍼によって何が起こるの?
瘢痕への鍼刺激では、皮膚・皮下組織などの結合組織に機械的な刺激が加わります。
鍼による機械的刺激が結合組織や線維芽細胞などに影響し、組織のリモデリングに関与する可能性が考えられています。
ただし、これらのメカニズムについても、まだ研究段階の部分があります。
そのため当院では、
「瘢痕を削る・溶かす」
という考え方ではなく、
「瘢痕周辺の組織の柔軟性や滑走性、動きやすさの改善を目指す」
という考え方で治療を行います。
当院では「つっぱり感」に注目します
瘢痕の状態は、単純に見た目だけでは判断できません。
そこで、
① 傷あと周辺の硬さ
② 皮膚・皮下組織の動き
③ つっぱり感が出る動作
④ 痛みや違和感
⑤ 関節の動き
などを確認しながら、現在の状態を評価します。
必要に応じて超音波画像も活用し、皮膚の下の組織の状態を確認します。
そのうえで、瘢痕周辺や関連する組織に対して鍼灸治療を行い、症状の変化を確認していきます。
「手術したから仕方ない」と諦める前に
手術後のつっぱり感は、時間とともに改善する場合もあります。
しかし、
「何ヶ月経ってもつっぱる」
「動かすと傷あとが引っ張られる」
「傷あとが硬くて動かしにくい」
「手術後から違和感がずっと残っている」
という場合は、一度ご相談ください。
瘢痕そのものを「消す」ことを目的とするのではなく、
今ある瘢痕と周囲の組織が、少しでも動きやすく、柔らかくなること
を目指して治療していきます。
すべての手術痕に鍼を行えるわけではありません
手術直後の傷口、感染や炎症が疑われる部位、出血などのリスクがある状態では、鍼治療を行わない場合があります。
また、傷あとが大きく盛り上がっている場合には、肥厚性瘢痕やケロイドなどの可能性もあります。
その場合は、まず皮膚科などの医療機関での評価が適切なケースもあります。
状態を確認したうえで、安全性を優先して治療方法をご提案します。
参考文献・エビデンス
Chmielewska D, et al.
Acupuncture and dry needling for physical therapy of scar: a systematic review.
BMC Complement Med Ther. 2024;24:14.(PubMed Central (PMC))
Trybulski R, et al.
Dry Needling and Acupuncture for Scars—A Systematic Review.
J Clin Med. 2024;13(14):3994.(PubMed Central (PMC))
※現在の研究では、瘢痕に対する鍼・ドライニードリングの有効性を示唆する報告がある一方、研究数や質には限界があり、効果を確立するにはさらなる研究が必要とされています。


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